Little AngelPretty devil 〜ルイヒル年の差パラレル 番外編

    “寒月冴月
 


 年も新たに、さても目出度や、新歳、初春、謹賀新年。領春、迎春、恭賀新年、臥薪嘗胆。
「…最後のはちょっと関係がないような。」
 まあまあ。新年早々、堅いことは言わないったら。
「屠蘇も飲めぬクセに酔った振りとは上等だな。」
 …進さん、眸が座ってないかい? とりあえず、その精霊刀は物騒だから、鞘に仕舞って仕舞って。怖いもの知らずな筆者のお茶目はひとまず置いといて。一年の計は元旦に有り、なぞと申しまして。新しい年の最初の朝をそれは清
さやかに迎えし時は、このあばら家屋敷の主人を筆頭に、家人の全員が顔を揃えて、昇る朝日へと一応の拝礼。何たって自然現象にお世話になってる術師のお家。一年に一回の真っ新さらなお天道様こと“日輪”へ、お世話になる旨へのご挨拶くらいはしといても罰は当たらない。

  ――― 今年もまたぞろ、力借りるぜ、夜露死苦と。

 …いや、そんなふざけたご挨拶ではなかったので念のため。
(笑) 正月の行事は結構あって、初子の宴に、卯杖の祝い、雪間に若菜を摘む“七草”の節供に、宮中では“白馬の節会せちえ”。縁起のいい白い馬をこの日に見ると一年の邪気を払えるため、それを帝がご覧になられる催しがあったりし…と。細かいものを挙げれば限キリがないほど沢山あって。元日午前の“元旦”だけに限っても、それなりの謂れに則った手順や何や、こういう家だからこそというものも合わせて、半端じゃないほど山ほどある…筈なのだのに。朝一番の、ほんのひとときの黙祷だけで、そりゃああっさり飽きたらしい、相変わらずに気の短いお館様。
『やったものとやらなかったものがあったりするよな“片手落ち”では、やらなかったものに悪いだろうがよ。』
 なんていう、勝手な理屈を捏ねた上。他のしきたり全般は瀬那と舎人頭に任すと宣いて、さっさと自分のお部屋である、庭前の広間へと戻って行かれてしまわれたので。
『これはいかに致しましょうか。』
『宮中へのご挨拶は、いつ何を?』
『初登庁は三日でしたよね?』
『そうそう、そういえば。除目
じもくがございますね。』
 正月の九日ごろから3日ほど、所謂“人事異動”の審議と発布が執り行われる。良い領地の国守に任命されたいがため、小粒で無冠な貴族による猟官運動も盛んで、有力貴族のところには“つけ届け”の贈り物も山のように届けられるのだとか。よほどの貴族が余っているのだろうか、ここのような世捨て人が住まうような館にも、結構な数の贈り物が集まるのだそうで、それをどう処理したものかと問われたのには、さすがに書生のセナでは断じかね、
『…お館さま?』
 恐る恐るお伺いを立ててみたれば、
『貰うだけ貰らっといて、後は知らん顔でいな。』
 訊いてから“やっぱりなぁ〜”と思ったようなお答えが返って来て。俺なんぞに期待するような、筋金入りの世間知らずな“とんちんかん”には、そこへと座らせて懇々と説くよりも効果のなさを実感させた方がいい。そういう希少な痛みを身に染みて覚えられる機会を得られたのだと、せいぜい有り難がられていりゃあいいさ…なんてなことを、しゃあしゃあと言って憚らないよなお人なので。
『…まあ確かに。』
 いくら上達部の神祗官(補佐)だとはいえ、その美麗にして妖冶な姿の異形さ加減や、時には帝や東宮様でさえ対等に扱うほどもの、傲慢で過激な言動の型破りなところなどから、高官貴族の間では鼻つまみで通っている人物であるのだと、まずは覚えておいた方がいいのは事実だし。舎人頭と顔を見合わせ、うんうんと頷き合ってから、様々なお仕事・儀式をばたばたと片付けて、さて。

  「…お館様?」

 とりあえずは個人のお家でなさねばならないお正月のあれやこれやを、何とかこなした一日目は、夕餉のお時間にはお顔を見せて下さったのに。もう全部片付いたのか? 何だ、あれとこれとはまだ手付かずか、案外と鈍
とろいのななんて。やっぱり勝手なことばかり、からからと愉快そうに笑いながら仰せだったお館様が。どうしてだろうか、二日目の今日は、広間からもお出にならずで。この日は宮中に上がって朝賀の列へと身を置かねばならなかったのに、それがお出ましにならなかったものだから。係の方が大慌てで迎えの輿を運ばれたのだが、肝心な当人はうんともすんともお答えにさえならぬまま。どうしたものかと御使者の方と一緒にセナがおろおろ困っていれば、あの武者小路のお家から、略式ながらも礼服に身を包んだ書生の陸くんが若駒を駆ってわざわざ参られ、
『具合が悪いようであるのなら、参賀の席にはどうしても参られずともよいと。』
 武者小路家の家長様、神祗官様からのお達しを持って来られて、何とかその場は収まったのだが。
「お館様、どうされたのですか?」
 気まぐれで勘気も強くて、後世の表現で言うところの“気分屋”さんな人だから。何かしら気が乗らなくってというよな曖昧な理由で、堂々と宮中への参内を蹴るのは、実を言えばこれに始まったことではないお師匠様ではあるのだが。何も、年の初めの、一番目立つ式典へ、それをやってのけなくとも…と思った反面、もしかしたら、

  「お館様、もしかして容体がお悪いのですか?」

 そういえば。広間の大戸は一間だけ開いているものの、妻戸に蔀
しとみに窓も全部、朝からびくとも動いてはいない。朝餉の膳を持っていった時に、今日の予定を一応はお話ししたのだが。満足にお返事の声を聞けないでいたのを、ああ今日は虫の居所が微妙に悪い日なのかも知れないと、勝手に断じて遠巻きにしちゃったセナだったのだけれども。単に機嫌が悪いのではなく、具合が悪いお館様なのかもしれないと、今になって気がついた。自分は昨日から忙しくって、そりゃあばたばた駆け回っており、それで何とも感じなかったが。ひょいと見やった庭先の、草むらの中に捨て置かれたる、縁の欠けたる石の鉢。小鳥が水浴びにくるのでと、そのまま放置されてるそれへ、何の気なしに視線が行って…ハッとした。中にわずかに溜まっていたお水のおもて。昼になってもまだ薄く、氷が張っているではないか。そういえば、暮れには雪が降っていた。昨日今日は幸いにして陽も射していたので、ぴんと来ないままでいたのだけれど、もしかせずとも…随分と冷え込みのキツい日なのではなかろうか。広間にそれとは、またまた規格外の仕様ながら、暮れのうちにも炭櫃(すびつ・囲炉裏)を拵えたとはいえど。そんな無体を言い出したこととて、元はと言えば…そりゃあ細身のお館様であるが故、人より数倍 寒いのが堪えてのことであり。
「お館様っ、どうされましたか? せめてお声を聞かせて下さいっ。」
 ああそうだった、何て気の回らない子であるかと、自分で自分の迂闊さに苛立ちがつのる。お館様は強情だから、自分からそんなことを言い出したりはしないのに。誰に対してでも弱みを持つのがお嫌いで。だから、日頃から体調さえもきっちりと管理なさっておいでで。それをもって…こちらが風邪など引いたらば“この軟弱者が”とからかいつつも、きちんと看病して下さる方なのに。失礼かもしれないがと、外から手をかけた妻戸や蔀は、咒でもかけておいでなのか、凍ったように動かなくって。だから尚のこと不安になった。
「お館さまっ?」
 大切な参賀に上がられなかったのも、思えば不自然なこと。他の殿上人は嫌っておいででも、今帝や東宮様には屈託のない態度でおわすお館様なのに。だから、彼らの立場を引き立てるための参列ならば、よほどの面倒でもない限り、むしろ進んで冷やかしに行くような人ではなかったか。
「…お館様ぁ〜〜〜。」
 どうかすると泣き出しそうなお声になっての呼びかけへも、やはり室内の気配は動きそうにはなくって。その代わりのように、渡り廊下に現れたのは、
「主よ、どうした?」
 軽く片膝を板の間について、小さな主人に時折吹きつける風から庇うように寄り添う、上背も大きな、凛々しき殿御。いやさ、憑神様の進が姿を現したので。
「進さん〜〜〜。」
 よほど追い詰められたか、それとも安心してのことだろか。愛らしいお顔を泣き出しそうに、ふにゃりと歪めてしまったセナくんであり。お正月用のお仕着せか、水干にも似た愛らしい襲
かさねの狩衣をまとってた小さな書生くん。大好きな憑神様の暖かい懐ろへと、お顔を埋めてしまったのでありました。







            ◇



 懸命に声を張っていたおチビさんの気配が去ったのを感じ取り、やっとのこと、気づかぬうちにも気を張っていたのがふっと緩んだ。
“まったく…妙なところで敏感な奴だからな。”
 大したことではないというに、何でああまでの恐慌状態になるのかな。大体、自分の身のどっこも、痛くも痒くもないのだろうにね。まるで彼の側こそが、助けてくれと叫んでいたかのようだったので。その悲痛なお声にこそ、居たたまれなくなりそうになっていた蛭魔であり。
「………。」
 ずぼらの常の万年床に、ぼんやりと身を起こして座ってる。ここだと炭櫃からは ちと遠いのだが、周囲に几帳が居並んでいるので、風も来ないし寒くはない。この時代には珍しい、ふっくらと真綿を詰めた布団を敷いて掛けてという寝具の揃いは、あの式神さんが出してくれた代物で。セナからそれを聞いたらしい桜の宮様なぞは、
『まるで輿入れ道具のようだね』
 明るいお声で要らんことを言ったので。思わず でこぴん…なんていう、無礼千万なことをしてやって、気を晴らした蛭魔だったりしたのだけれど。
“…詰まんねぇのな。”
 ふかふかな布団、寝心地のいい布団。でも、一日寝ているのはさすがに飽いた。それに、これにくるまってると、いやでも誰かさんの残り香がする。年明けの昨日からこっち、姿を見ないままの蜥蜴の総帥。野暮用があっからこっちには来れないと言い置いて、自分の塒のある古祠へと戻っていってしまった、本人こそが誰より野暮で鈍い、黒の侍従の大きな背中ばかりを思い出してる自分が嫌い。
『何かあったら“眞の名”を呼べ』
 そしたら、何処に居ようと何をしてようと、一瞬で駆けつけてやっからなと、どこまでホントかそうと言ってた彼であり。
“別によ…。”
 あいつにしかどうにも出来ないからって頼るような場合って、実際にあるものかなぁなんて。咒の錬磨も剣技の巧みも、そんなに大差は無いのだし。負世界の眷属、黒の邪妖への攻勢において、対等になれるだろう陰の咒をこなせる“飛び道具”ってだけが取り柄の輩じゃあないかと。自分の中から…大切なものという許容の中から、出来るだけ遠いところへ追いやろうとするのだが、
「………。」
 気がつけば。指先では、首に提げたあの翡翠石を弄んでいたりするし。それまではそんな癖なんてなかったはずが、指を櫛のように立てては前髪を全部搦め取り、頭の上へ ごそりと掻き上げていたりもし。それがあの総帥殿の癖と同じだってことは、今のところは進しか気づいてはいないのだけれど…。
「〜〜〜〜〜。」
 自覚のない苛立ちの原因は二つあって。1つは言わずもがなな誰かさんの不在。そしてもう1つは…。


  「………よお。」

   ………っ☆


 不意な声へとハッとして、肩が強ばる。気配を示さずに現れることが出来るのは、彼の素性からすりゃ不思議のないところではあるのだが、
「何をぼんやりしてやがる。」
 一応は主従の契りを結んでいるのだ、唐突に現れるなどという、不遜なことをするのは僭越の極み。それでなくとも意表を衝かれるのを一番に嫌う主人だから、ちゃんと気配を遠くから示しつつ、姿も見せての登場をした彼であり。ただ単に、蛭魔の方が呆気ていただけの話なのだが、
「………。」
 それにしては。人一倍 勘気の強い彼が、そんな揚げ足取りをされても怒り出さないのは意外なことで。口を噤んだまま、ただちょっと眉を寄せただけ。おややと怪訝そうに目許を眇めた葉柱だったが、
「………。」
 その屈強な肢体をそりゃあなめらかに運んで近づいたそのままに、何だかどんどん、過ぎるほどもの至近へと寄って来る彼なので。ちょっと待たんかと後ずさりしかかった金髪痩躯の術師殿を、狩衣の袴の膝をついてまでの超急接近にて、自分のリーチの間合いへと追い詰め、取り込んでから。大きな手が伸び、がっしと楽々、細い肩をば捕まえてしまい。それからそれから、

  「………っ!」

 もう一方の手のひらが、何のつもりか…蛭魔の首元へと伏せられて。相手の首が細いから、片手でそのまま握れそうな対比のそれを、小指を上にと伏せたそのまま、顎の側へと撫で上げる。急所も急所、喉元深くなんてところへ易々と触れさせた油断へ、自分で自分が信じられないと。唖然としていた蛭魔だったが、
「ちょ…こらっ!」
 そのまま…相手の顔がこちらの懐ろに潜り込まんとして来たもんだから。何をしやがると怒鳴りつけてやりかかったが、思うような声が出ない。しかも、
「今 声を出せばもっと傷むからよ。頼むからいい子にしてな。」
 すっぱり言われ、しかもしかも、
「あ………。/////////
 少し乾いた、暖かい感触が。喉の肌という過敏なところへと躊躇なく喰いついて。
“………温かい。”
 ああ、これには覚えがある。怪我を負うたび、いつも治してくれてたアレだ。あれ? でも、これって病気にも効くものなのか? そこまで何にでも通用する、万能な治癒力なんか? 端から見たらば、人食い鬼にでも襲われている図を思わせるよな。ちょいと不自然にも仰向かされての治療を受けて…幾刻か。

  「…なんで分かった。」
  「あん?」

 そうした方が治療しやすい体勢が保てたからか。途中からしっかとその懐ろに掻い込まれ、抱きすくめられていた術師殿。喉元から口唇が離れてもそのまま、頭の後ろへと手のひらを回され、小さな子供でも宥めているかのように懐ろの深みへと抱かれているのが、妙に居心地がよかったので。ぼんやりと凭れたままで随分と言葉が足りない言いようで訊いてみれば。
「中で腫れが熱持ってたのがな、外からでも分かるくらいになってたからだ。」
 そういうのは一種の“怪我”だからな。となりゃ、俺の能力
ちからで炎症を沈めりゃあいいだけのこった。頬をつけてる胸板からも、深みのある声の震えが伝わる。その声の響きがまた、何とも言えず心地いいから。
「…そっか。」
 な〜んだとか何とか呟いて。今日初めてのまともな会話に、切れ長な目許を細めた術師、母にあやされている赤子のように安らいで、うとうとと眠りそうになっている。セナが遅ればせながら心配したその通り、実は今朝から喉がおかしかったお師様であり。きっと昨夜、遅くまで縁側でぼんやりと考え事なぞしていたせいだ。近畿近在の様々な地にあって、近隣の蜥蜴の邪妖たちをそれぞれに治めている、言わば“分家”の長たちの会合とやら。そこへと出掛けていた葉柱であり。こやつには自分では踏み込めぬ世界(テリトリー)が結構あって、しかも律義にそのどれへも手を抜かない気配りをしてやがる。それが何だか、ちょっぴり癪だったのでと。埒もないことで想いを巡らせていたら、覿面、風邪を拾ったらしく。セナへと返事をしようにも声が出ない。そこからの誤解はまま、いつものことだから良いとして。声を出せなくなったことから、鬱憤が余計に溜まってしまったのが、正直 堪えていたはずなのにね。

  “う〜ん。/////////

 ほんの ついさっきのことなのに、今は全然、跡形もない現金さよ。大事に大事にと掻い込まれた腕の中は、やっぱり温かで。すっぽりとくるまれた此処は、いい匂いがして落ち着ける。


  ――― お前また呼ばなかったな。
       いいじゃんか。こうやって自然に来たので間に合ったんだしよ。
       それはまあ…そうなんだがな。
       それに、そんな心配するよな大病でもなかったんだし。
       あ、お前。俺のこの治癒の能力を軽く見てねぇか?
       何だよ。ただ傷口を塞ぐってだけなんだろ?
       失敬だよな。頑張れば胃の腑の爛れだって治せるんだぞ?
       そんなもん、俺には関係ないし〜。


 不快が去っての安寧が、意識をとろとろと蕩かしてゆくから。あまり気の利いた受け答えが出来ぬまま、だんだんと意識も気力も萎えてゆく。
“これでこいつも気を遣ってたんだろうよな。”
 小さなセナが狼狽しないようにと、敢えて“単なる不機嫌だ”と思えるように振る舞っていたのかも。天衣無縫の我儘な術師。天涯孤独の身であることを、むしろ武器にし、要領を読み、身軽に身勝手に世を渡って来たらしいものが。今はこんなにも、人との関わりを大切に暖め、満喫している。本人へと指摘したならきっと否定するだろうけど、そういうところまでが可愛い奴だと、こちらは苦笑が止まらなくって。見とがめられたらヤバイなぁ。ああそうだ、寄り合いで顔を合わせた年寄りたちに、うるさく説教されたことを思い出しただけだと誤魔化そう。何処の世界でも年寄りはうるせぇよななんて、そっちへ誘導すりゃあいい。慣れない小細工、使わないで済むといいですねと。庭先の椿が幾つもで、それは柔らかく…微笑うようにほころんでいたそうな。


  ――― 何はともあれ、今年もよろしくvv











  clov.gif おまけ clov.gif


 軽い風邪から喉を痛めていたがため、それでお声が聞けなかったお館様だと、やっとセナへまで事情が届いたのは。葉柱さんから受けた治療の後、結局は軽く眠ってしまわれた後になり、夕餉の席になってから。
『じゃあお館様は、ボクが頂き物の揚げ菓子を食べちゃったことを、怒ってらしたんじゃないんですね? 棒だらの最後の一つをこっそり取ったこと、怒ってらしたんじゃないんですね? 絵草紙のお花の頁に折り目つけちゃったこと…。』
『怒ってねぇよっ。』
 つか、お前そんなにもあれこれやらかしとったんかいと。大人しそうに見せといて、実は結構大胆だったらしい書生くんからの懴悔の数々に、微妙に違った方向からむっかりしかかっていたお師匠様だったそうであり。
(笑)

  「はあ、よかったvv

 お風邪の方も快方に向かってらっしゃるというし、良かった良かったと肩の力を抜きまくってる小さな主人へ。寒くないようにという衝立の代わり、すぐの傍らに寄り添っていた憑神様も。何でだろうか苦笑が止まらず、ほのぼのと和んだお顔でいらっしゃる。雄々しき武神の進さんは、戦いのためにと正式な咒で呼べば武装した姿で出て来るが、今日のように何でもない時は、簡単な袷
あわせに袴という軽装で出て来て下さり、小さな主人をひょいっと抱っこしたりと、気安い構い方をして下さるのだが。
「そういえば…。」
 何を思いついたのか、こちらを見上げて来たセナの大きな瞳に、丁度昇ったばかりの三日月が映る。潤みの中に浮かんだ冴月に、ついつい見とれていれば、
「進さんには、葉柱さんが逢って来たような親戚筋のような人はいないのですか?」
 いかにも彼らしい、どこか稚
いとけないことを訊いてくれたので、
「俺は俺一人の存在だからな。」
 他の世界の他の祈りにも、似た者があるいは居るのかも知れないが。倭の国の畿内の武神は当代に彼一人。彼にとっては当たり前なことだったから、さらりと応じたんだのに。
「あ………。」
 何だか悲壮なお顔をしたセナであり。お仲間を紹介してほしかったのだろうかと、武神様、大きく的を外して勘違いしかかったところへ、

  「…ボクが居ますからね?」

 何故だろうか、その大きな手を、彼の小さな手が懸命に握ってくれて。………ああ、もしかしてこれって、把握の違いから何か誤解をされており、しかも

  “物凄く同情されているような気がするのだが…。”

 小さなセナ、優しいセナ。自分がどうしても守りたくて守りたくて。その結果、やりすぎから大迷惑を掛けてしまったのに、それでもこんな風に慕ってくれる、愛しい主人。頼りないけど温かい、そんな小さな手を見下ろして、

  “………ま・いっか。”

 温かいから、幸せだから。それで善しとしときましょうぞと。何だか憑神様までが、此処の気風にすっかりと染まりつつあるようです。こちらさんたちの方も、どうか今年もよろしくですvv





  〜Fine〜  06.01.06.


  *相変わらずな術師さんと総帥様で、
   この二人は思えば、立場も気性も何もかも、全然咬み合わない筈なんですが、
   気がつけば…下書きもメモもない“ぶっつけ本番”でも、
   こういうのが書き下ろせるような把握でいる筆者だったりしてます。
(笑)
 

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